個人開業医が今日からできる2つの簡単な節税法
日々全力で診療に当たられて、余計な事まで考えられないのか、すぐに出来る節税をもされていない開業医の先生が多くいらっしゃいます。
お医者さんが損をしないためのサイト【エキスパート・ドクター】運営者、ファイナンシャルプランナーの常盤が開業医の先生からお受けするご相談で一番多いのが、「節税したい」というものです
個人開業医の節税のポイント
他の業界と違い、開業医の収入の多くは社会保険からの診療報酬となりますので、これは調整の仕様がありません。
所得税とは、単純に言えば、所得×税率です。
したがって、開業医の節税のポイントは
・経費を作る
・適用される税率を下げる
この2つになります。
個人開業医の節税で一番効果があるのが、医療法人成りです。
しかし、平成19年の第5次医療法改正により、医療法人の残余財産の扱いが大きく変わりました。
医療法人は「営利企業ではない」建前のため、いろいろと制約もあります。
医業収入が落ちて、メリットよりデメリットが目立つようになった、というクリニックも増えています。
ここでは、そんな大きな決断ではなく、
・今すぐできて
・税務調査などのリスクがない
・国が認めている節税
を先ずはおすすめします。
個人開業医はなぜ節税する必要があるのか
必死に働いて、実際収入も多いのになぜかお金が溜まらない・・・ その大きな理由の一つが、日本の所得税の構造にあります。
日本の所得税の特徴は、「超過累進課税」です。
つまり頑張って稼げば稼ぐほど懲罰的に税負担が重くなる、という事です。
◇下のシミュレーションは個人開業医の先生の、所得(収入ー経費)ごとの手取り額です。(2019年4月1日現在) ※前提条件(・50歳個人開業医、配偶者あり(青色専従者)・子供2人(18歳、15歳)、国民年金、医師国保加入、東京都) |
◆所得(収入ー必要経費)が2000万円の場合
所得2000万円ー所得税(約428万)ー住民税(約178万)ー国民年金保険料(約20万円)ー医師国保保険料 約76万円
=手取り約1300万円
◆所得(収入ー必要経費)が3000万円の場合
所得3000万円ー所得税(約826万)ー住民税(約278万)ー国民年金保険料(約20万円)ー医師国保保険料 約76万円
=手取り約1800万円
開業医なら節税につながる積立を
上記のように、所得2000万で税、社会保険の負担が約700万円、所得3000万で約1200万円です。およそ40%も引かれるのです。
仕方が無い事とはいえ、たくさん税金を払った後のお金で、生活費、教育費をまかない、借入金を返済されているのが、開業医の先生方です。
その後のお金が、ようやくご自身のための貯蓄に回せます。
結果的に金融機関が勧めてくる、投資信託、ドル建て終身保険などは、先生が稼いだ元のお金から40%減った状態から運用スタートしている、 とも言えます。
もし、「税金を払う前のお金」がまるまる運用できたら・・・
言い換えるなら、「掛金が経費で落とせる(所得控除できる)積立があれば・・・
その答えが、小規模企業共済と個人型確定拠出年金イデコ(iDeCo)です。
開業医の先生はまず第一に、次の2つの制度をご検討下さい。
金融商品はその後で大丈夫です。
(医療法人成、不動産投資等、慎重な検討が必要な節税法は別の機会に書きます)。
開業医と小規模企業共済
小規模企業共済とは、経済産業省所管の中小機構(中小企業基盤整備機構)が運営する「退職金制度」です。
退職金制度ですが、個人事業主である開業医の先生や、共同経営者の奥様も加入することが出来ます。
・メリットその1
掛け金の全額が所得控除できる
掛け金の上限は月額7万円(年間84万円)です。
※小規模企業共済加入前(課税所得2000万のシミュレーション)
課税所得 | 所得税 | 住民税 | 税金合計 |
2,000万 | 約520万 | 約200万 | 約720万 |
※小規模企業共済加入後(月額7万円、課税所得2000万のシミュレーション)
課税所得 | 所得税 | 住民税 | 税金合計 |
1,916万 | 約486万 | 約192万 | 約678万 |
小規模企業共済に加入するだけで、年間約42万円の節税になりました。
掛け金84万円に対して42万円の節税額・・・
すごくないですか?
単に経費を作るために車を買う、社内旅行に行く等といった、お金が流出してしまうだけの話ではなく、ちゃんと先生の将来のための財産になっているのです。
税金、経費の負担を考えたら、純利益42万円は、70万円以上の診療報酬に匹敵しませんか?。
仮に患者さん1人当たりの診療報酬が5000円とすると患者さん140人分にも相当します。
・メリットその2
共済金を一括で受け取っ場合、退職所得となる
クリニックを閉院したり、65歳以上で180か月以上掛け金を払い込んだ等の規定を満たすと、退職所得として共済金を受け取れます。この「退職所得」というのがまた税制上のメリットが極めて大きいのです。
(例)25年間小規模企業共済の掛け金を払い、共済金を2000万円受け取った場合の所得税
(受取った共済金2000万円ー退職所得控除1150万円)×1/2=425万円(退職所得) この退職所得に分離課税で所得税率がかかります。 上の例だと、退職所得425万円×所得税率20%-控除約42万円=約43万円(所得税) |
2000万円の収入に対して43万円の所得税。
なんと2%そこそこの税率です・・・
これがまた、確定拠出年金(IDECO)と組み合わせると積立金月額138,000円が所得控除でき、個人開業医の先生でも退職金が2度受け取れてしまう、というすごいメリットを享受できるのです。
結論・・・開業医の先生にとって小規模企業共済に加入するメリットは非常に大きい。
・小規模企業共済のデメリット
1.加入資格に制限がある
個人開業医の場合、常時使用する従業員が5人以下の先生に限られる(従業員が少ないうちに加入すべき)
また、医療法人成している開業医は加入できない。
※個人開業医時代に小規模企業共済に加入 → 医療法人成したら退職扱いで準共済金が支払われます(一時所得にならないので、法人成を予定しているドクターは加入しておくメリット大)。
2.20年未満で任意解約した場合、掛け金の総額を解約金が下回る
3.65歳未満で任意解約すると、退職所得ではなく、一時所得となり、退職金に比べ高い所得税がかかる。
など注意事項もあります。
小規模企業共済についての詳細は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)のウェブサイトをご覧ください。
開業医と個人型確定拠出年金(iDeCo)
小規模企業共済とならぶ、個人開業医にとって節税効果の大きい制度がiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)への加入です。
iDeCo(イデコ)は開業医にとって小規模企業共済よりも加入しやすい制度です。
・使用する従業員の人数が何人いる個人開業医でも加入が出来ます。
・医療法人の理事長、理事でも加入が出来ます(掛金の限度は小さくなります)。 → 一人医療法人の理事長、理事はこちらもご覧ください。
・個人開業医の先生がiDeCo(イデコ)に加入するメリット
1.掛金の全額が所得控除できる。
掛金の上限は、法人成していないドクターで月額68,000円(年間816,000円)です。
課税所得2000万円(収入ー必要経費ー各種控除)の例 ※iDeCo(イデコ)加入前 |
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課税所得 | 所得税 | 住民税 | 税金合計 |
2,000万 | 約520万 | 約200万 | 約720万 |
課税所得2000万円(収入ー必要経費ー各種控除)の例 ※iDeCo(イデコ)月額68,000円加入後 |
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課税所得 | 所得税 | 住民税 | 税金合計 |
約1918万 | 約488万 | 約192万 | 約680万 |
個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)に加入するだけで、年間約40万円の節税になりました。
年間約81万円の掛金で約40万円の節税。すごいですね・・・
原則誰でも加入できるので、例えば青色専従者の奥様の給与を月額68,000円増やしてあげて、奥様がイデコに加入します。
奥様も全額所得控除できるので、奥様の税金は今までと変わらず、先生の課税所得は年間で81万6千円下がります。
上記の例では二人分併せて年間80万円、先生の所得税の節税になります。
所得税の税率が高いドクターほどメリットが大きくなります。
2.60歳以降、積み立てた年金を一時金で受け取った場合、退職所得となる。
原則60歳になるとiDeCo(イデコ)の受給権が発生します。
積み立てた個人型確定拠出年金イデコを一時金で受け取る場合は、小規模企業共済と同じく、「退職所得」として受け取れます。
これが個人開業医にとって大きなメリットになります。
(例)20年間iDeCo(イデコ)の掛け金を払い、運用益を加えた積立金を共済金を2000万円を一時金で受け取った場合の所得税 |
(受取った共済金2000万円ー退職所得控除800万円)×1/2=600万円(退職所得) この退職所得に分離課税で所得税率がかかります。 上の例だと、退職所得600万円×所得税率20%-控除約42万円=約78万円(所得税) |
2000万の収入に対して78万の税金。
4%弱の税率です。
小規模企業共済と合わせれば、個人開業医の先生一人分だけでも月額138,000円(年間156万6000円)の所得控除が使え、節税効果が高いです。
3.運用益が非課税
イデコの運用益は非課税です。どんなに運用益が大きくなっても非課税です。通常引かれる約20%の税金分も運用に回せるので、複利効果が大きいです。
・イデコ(iDeCo)のデメリット
1.原則60歳まで積立金を引き出せない
ある意味、若いドクターにとってはこれが一番のリスクかもしれません。
途中引き出す必要のない、余裕資金の範囲で掛ける必要があります。
また、60歳の時点で、イデコに加入していた期間が10年に満たない場合は、受給が繰り下げられます。
2.毎年コストがかかる
イデコには次の3つの手数料がかかります。
① 加入時手数料 ・・・初回のみ
国民年金基金連合会に対する一時的なコストとして2,829円(税込)の手数料
② 継続中にかかる手数料
国民年金基金連合会に支払う「事務手数料」と、信託銀行に支払う「資産管理手数料」 合計で年間2,052円(税込)かかります。
③ 運営管理手数料
運営する金融機関に払う手数料です。金融機関により異なりますが、無料のところが増えてきました。
イデコは自分で運用対象を選ぶ必要があります。株価や為替などの変動が嫌だ、という場合には、元本保証商品もあります。
上記に納得の上なら、個人開業医ができる節税策として、また老後資金の準備としては、大変優れた制度です。
個人型確定拠出年金イデコ(iDeCo)についての詳細は、iDeCo公式サイトをご覧ください。
所得控除できる積み立ては、高い税金を負担されている開業医の先生への、国からのプレゼントと言えるのではないでしょうか。